木バス発電ニュース No.9 から その1 放射性微粒子
なぜ放射性微粒子の検査を市民が行わねばならないのか
西山貴代美
「木質バイオマス発電チェック市民会議」の主な活動「リネン吸着法検査」を、市民
の手で行う意義について述べたい。
2019年の春、「木質バイオマス発電を学ぶ会」として、ちくりん舎の青木一政氏を講
師に招き、木質バイオマス発電について学び始めた。その中で、ちくりん舎が市民運動
の中で生み出した「リネン吸着法検査」によって、発電所のばい煙中に含まれる放射性
物質・セシウムの微粒子を監視できることを知った。
当初、市民の中には「そんな検査は行政にやらせればよい」という者もいたが、私た
ちは市民が検査を行うことによって、秘密裏に建設を計画し実行していった東御市と事
業者を監視することができると思い、定期的な市民測定を始めていった。そして、学習
や測定活動を進めていくうちに、日本の法律や制度の中では、行政や事業者は、大気中
に浮遊する放射性微粒子の検査などは行わないということに気づいていった。
2011年の東電福島第一原発事故以前は、放射性物質の拡散を想定していなかったため
環境基本法第13条で、放射性物質による汚染防止の措置は原子力関連法で対処すること
となっていた。しかし原発事故後の2013年、その13条が削除され、環境関連法で対処す
るということになった。環境関連法で対処するという方向性は間違っていないが、実は
ここに落とし穴がある。肝心の大気汚染防止法や水質汚濁防止法等の個別法において
は、放射性物質による環境汚染の防止は適用除外とされたままで、環境大臣が放射性物
質による大気汚染・水質汚濁の状況を常時監視するということにしたのである。環境省
やその外部組織の原子力規制委員会が常時監視を行うのだが、放射性物質に関する環境
基準を定めておらず、ただモニタリングするだけで、放射能汚染されたものとしての対
象量の把握、処理に関する基準や方法、処理主体も規定されていない。
また、焼却処理する場合の排ガスに関しては環境基準を定めていても、セシウム137
が30Bq/㎥という極めて緩い基準であるため、バグフィルターのろ布ユニットが30%く
らい壊れていても、問題なくクリアしてしまうという、基準がないと言ってもいいくら
いの基準となっている。
次に微粒子に関する測定の問題だが、2009年にPM2.5と呼ばれる粒径2.5μm以下の微
小粒子についての環境基準が定められた(1年平均値15μg/㎥、かつ1日平均値35μ)。し
かし、これは「法令によらない注意喚起」という規定の項目であって、「大気汚染に係
る環境基準」ではない。「大気汚染に係る環境基準」項目は、二酸化硫黄、一酸化炭
素、浮遊粒子状物質(PM10)、二酸化窒素、光化学オキシダントのみ。だから、行政
が行う大気汚染調査では微小粒子状物質(PM2.5)は対象とならない。環境影響評価に
おいても、微小粒子状物質を測定しないということを、上田クリーンセンター環境影響
評価の説明会で知って、愕然とした。人体に及ぼす悪影響は微小粒子状物質の方が断然
高いというのが、専門家の間でも常識であるし、新聞でもそのことが報道されている。
このような法と政治における不作為、抜け穴があることを、市民は知らなければいけな
い。
最後に放射性微粒子について、ちくりん舎の青木一政氏から学んだことをお知らせし
たい。青木氏は、現在、大崎市放射能汚染ごみ焼却住民訴訟において、焼却炉排ガス精
密測定を被告である大崎市に認めさせ、測定を実施し終え、次なる公判に備えておられ
るところだが、環境省が定める排ガス測定法の「公定法」を検出限界を下げて(排ガス
収集量を20倍、ゲルマ測定時間を172倍に)行うことによって、バグフィルターからセ
シウムが漏れ出していることを実証しようとしている。
青木氏から頂いた資料によると、大気中浮遊粒子は微小粒子が極めて多く、大気中微
粒子中の微小粒子の個数比率は、0.1μm以下が75%で、0.3μm以下になると、約90%であ
る。そして、粒子が微小であるほど粒子中のセシウム濃度が高い。小さな容積の中にセ
シウムがぎゅっと詰め込まれているわけだ。
微小粒子は、肺の深部まで到達し、沈着部位に24時間以上滞留する。微小粒子がセシ
ウムであった場合、肺胞に留まったセシウムはガンマ線を出し続け、人体を内部被ばく
させる。しかも、排出されづらい不溶性のセシウムが約80%を占めている。
日本のJIS規格では、排ガス捕集用のろ布の集塵性能は、0.3μmまでの大きさの粒子ま
でにしか対応していない。自家用車の1年点検時に訪れた整備会社に置いてあったチラ
シにも、エアフィルターは「0.3μmの粒子にまで捕集効果を発揮」と書いてあった。
焼却炉や発電所のバグフィルターは、微小粒子状物質(PM2.5)用ではなく、浮遊粒子
状物質(PM10)用のろ布であり、0.1μm以下の微小粒子はほぼ捕捉できない。だから、
リネン吸着法検査で、市民が放射性微粒子の監視をする以外にないのである。
『木バス発電ニュース」 2021年12月発行 No.9 より