木質バイオマス発電

信州の 山なみ見わたす 陽だまりの町・東御市、ここに木質火力発電所ができるって?!

「国の補助金が日本の山をダメにした」高級木材を燃料にする”再エネ発電”の大問題

 再生可能エネルギーの一つとして「位置付けられている」木質バイオマス発電は

林保全の観点からも、「大問題」であると論じられることが多くなりました。

 

        「国の補助金が日本の山をダメにした」

       高級木材を燃料にする"再エネ発電"の大問題

 

プレジデントオンライン

https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/20210630-00047291-president-column?fbclid=IwAR1m-pM7ZSKlz4FveuCTitjXo3jTuOfcL6Lo3utqrwRdyxsKzPRu739T4j8

 

 日本の国土は約7割が森林だ。しかし、国産木材の自給率は3割ほどにとどまる。『森林で日本は蘇る 林業の瓦解を食い止めよ』(新潮新書)を出した慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の白井裕子准教授は「高い価格で取引されてもおかしくない木までもが、燃料用に叩き売られている。このままでは日本の森林が危ない」という――。

 高い木が売れなくなった

 丸太は品質によってA、B、C、D材に分けられる。A材は製材に、B材は集成材やCLT(Cross-Laminated-Timber)、合板の材料になる。

 CLTと集成材は似た製品である。集成材は、切り分けた木材の繊維の方向を「同じ向き」にそろえて接着して作るのに対し、CLTは、切り分けた木材の繊維の方向を交互に「直交」させ、接着して作る。最近、海外から入ってきたものである。

 合板は、大根を桂剥(かつらむ)きする要領で、木の外側から薄い板を切り取り、それによりできた薄い板(ベニア)を、その繊維方向を交互に直交させて重ね、接着剤で貼り合わせて作る。ベニアは正確に言うと合板ではなく、それを構成する薄い板の方である。もちろん集成材や合板もなくてはならない建築材料だ。

 C材はチップ用などである。D材は林地残材、要するにこれまではそのまま山に置いてきた資源で、今なら再生可能エネルギーの燃料用である。

 木材などを燃料にしてエネルギーを作るバイオマスプラントで用いられる。補足すると、一般的にはエネルギーを作るのに使うバイオマスには、建設現場で出る廃材、生ゴミ、家畜排泄物などもある。ただし、以下、バイオマスは木由来の有機物として話を進める。

 高品質な木材ほどピンチ

 価格は当然、A材が一番高く、順に値段が下がる。

 木1本の大きさには限度があり、また個体差もあり、材質も均一ではない。集成材やCLT、合板は、個々バラツキのある木の性質を平準化し、自然の木では難しい長さや幅の製品を作り出す。また立木からA材ばかり取れるわけではない、B材もC材も使う先があるのは重要である。しかし今の日本林業の問題はA材が売れないことである。増えているのは、B以下の需要ばかり。

 実はこのA材の製材を得意とするのが各地にあった中小の製材所である。しかし、これが激減している。背景には国が大規模化、集約化を進めたことがある。むろん大規模化には良い面もある。B材にあたる集成材やCLT、合板などの製材は、大型工場に軍配が上がる。

 懸念されるのは、本来A材として売るべき丸太も、B材として売らざるを得ない状況が発生していることだ。同様にB材をC材で、C材をD材で、という具合に値段が下がり、用材になるはずの丸太が、そのままバイオマスのエネルギープラントに流れ出している。

 バイオマスのプラントでは、残ったD材を消費するのが本来の姿である。バイオマス再生可能エネルギー利用は、これまで売れなかった木の残りを使うことに意味がある。しかしもっと高く売るべき丸太まで消費し始め、丸太全体の価格が下がってきた地域もある。ある県庁の担当者は「まずいことになった」ともらしていた。

 「大変な時代が来た」宮大工の嘆き

 以下は、知人の還暦を過ぎたある宮大工から聞いた話である。彼が「大変な時代が来た」と言って教えてくれた。

 原木市場に木材を買い付けに行ったら、建築用材となるはずの丸太が、トラックごとバイオマスプラントへ直行するのを見たそうだ。政策を決めた側は、「用材になるはずの丸太が、バイオマスプラントに運ばれるなんてことはあり得ない」と言う。

 しかし紙の上のルールで現実を縛ることはできない。用材となるべき丸太がバイオマスプラントへ運ばれていく。各地の現場は、それを目の当たりにしている。

 なぜ丸太のバイオマスプラント直行が業界で問題視されるのか。木は魚のように身からアラまで、無駄なく使うことで資源全体の価値を上げる。こういう利用方法をカスケード利用と呼ぶ。簡単に言えば、木を適材適所に使い分け、資源を無駄なく、すべて使っていくことだ。

 木の良い所から建築や家具の材料に使い、見た目の悪い木は、建築でも人の目につかない所に使ったりする。そして少々曲がっていたりして、必要な長さが取れないものは、集成材やCLT、合板を構成する材料等にする。最後に、もう形を取ることができない残りを、紙の原料やエネルギー源に使う。燃料にして燃やす木も、カスケード利用の中に位置付けられていることが大前提である。

 A、B、C、D材でいうD材のように伐り倒した後、山中に置きっぱなしにしていた木などをバイオマスに回すなら意味がある。木1本の、そして山林全体の価値を上げてくれる、このような使い方ならば、有意義である。

 しかしD材より上質の木材を燃やし始め、これまでB材、C材を使っていた業種と取り合いになっている地域がある。それどころか実態としては、A材まで手が伸びている。

 高品質の木材も、安価な再エネ燃料に……

 先ほど説明したとおり、木の単価は、家具や建築用材が一番高く、次第に下がっていく。粉々にする木が一番安い。刺身でも十分に美味しい魚を、濃い味付けが必要なアラ同等の安い値段で叩き売っていることになる。

 せっかくの建築用材を粉々にする燃料として叩き売れば、一時的に現金は稼げるかもしれない、建築用材の需要がないからという人もいる。しかし、それでは今を凌(しの)げたとして、山林も山村も疲弊に向かい、将来への持続性は得られない。

 用材となる木は、植えるにも、育てるにも、伐り出すにも技能がいる。きちんと用材として売れれば、育てた技術や山林にも正当な対価が払われる。山の麓に住む人々の仕事と家族の生活が守られる。それで次の世代の木を山に植えることができる。このサイクルが回れば、林業や製材業が将来へと発展していく。

 しかしバイオマスに使う木は粉々にするのだから、質は問わず、取引価格は安い。バイオマス利用だけでは、再造林などあり得ない。どこの木を、どう伐り出そうと、コストが安いのが一番。このような価格帯の低い木ばかりの流通量が増えれば、木材価格全体が下がり始める。

 さらに立木を植えて育てて収穫する技能まで損なわれ、山林の作り方がおぼつかなくなる。国土保全の劣化も心配される。

 再エネ補助金で、日本の森がダメになる

 本来は高い値段のはずの建築用材をエネルギー利用に回していたらお金にならないだろう、と思うかもしれない。しかし山から木を伐り出す仕事に補助金が下り、売る際にはFIT(フィット)をもとにした金額が支払われる。

 FITとはFeed-In Tariffの頭文字を取ったもので、エネルギーの固定価格買取制度を意味する。再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が一定の値段で買い取ることを定めたもので、バイオマス発電から得られる電力も対象となる。日本では電力会社が買い取る費用を、われわれ消費者が「再エネ賦課金」として負担している。

 最近、山林所有者になった方が「1年に7000万円の補助金をもらい、伐った木の多くをバイオマスのプラントに運んでいる」と言っていた。A材やB材の売り方も知らず、売り先も持たないようだった。これでは補助金を使った資源の切り売りに近い。

 政策に関わる人の中にも、この問題点に気づいている人がいる。

 「上(上司・上層部)の頭には、製材業について大規模集約化しかない。しかし中小の製材業が大事だ。あなたの口から言ってくれ」

 こう言われたこともある。政策も分かりやすい数値が取れる方に動く傾向があるため、どうしても大規模化を是とする傾向があるのだ。外からの「新しい」事業に傾倒し、昔からの「古い」事業の発展を蔑(ないがし)ろにするのは、日本的であるとも思う。

 「新しい」事業は、予算も取りやすい。CLTもバイオマスも、日本林業にとっては外から来た「新しい」事業である。持続性を得ようとするならば、どちらも必要で、共存できるよう制度を工夫することが求められる。

 そして、むしろ外からではなく内から、みずから成長する産業に持続的な将来性がある。外からすげ替えたところで、一時を凌いだだけになりかねない。「これまで」の積み重ねを軽視せず、粘り強く明日へと成長させることが重要だ。

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白井 裕子(しらい・ゆうこ)

慶應義塾大学准教授

慶應義塾大学准教授。早稲田大学理工学部建築学科卒。稲門建築会賞受賞。ドイツ・バウハウス大学に留学。早稲田大学大学院修士課程修了。株式会社野村総合研究所研究員、早稲田大学理工学術院客員教授などをつとめる。工学博士。一級建築士。著書に『森林の崩壊』。

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                    2021.6.30 プレジデントオンラインより