木質バイオマス発電

信州の 山なみ見わたす 陽だまりの町・東御市、ここに木質火力発電所ができるって?!

        東御市木質バイオマス発電所建設から気がついたこと②

       ~『学ぶ会』から『木質バイオマス発電チェック市民会議』へ~

   

という文章を、『平和の種をまく会』のニュースレター「平和の種」9月(2019.9.8)に載せていただきました。長野県県央を中心に全国に読者がいるニュースレターです。

 

 

      「東御市木質バイオマス発電所建設」から気がついたこと②

      ~「学ぶ会」から「木質バイオマス発電チェック市民会議」へ ~

                       西山貴代美 (NPO法人子どもの保養サポート上田・代表)

 

 生活クラブ生協による福島見学会に参加し、「チェルノブイリでは決して燃やしてはいけなとされていることを、福島でやり始めたのです」と言われたことをずしりと心に受け止めて福島から帰ってきた彼女と、人々の心に寄り添った形での復興がなされてはいないと感じながら福島から戻って来た彼女と、自分の町の真ん中に火力発電所の建設がすでに着工してしまったと驚いた彼女とで始めた「木質バイオマス発電を学ぶ会」は、ここ半年余りの間に、大変多くの出会いと学びを、メンバーにもたらしてくれました。

 放射能汚染の「見えない化」〉

 私たちは、日本における木質バイオマス発電の本質について学んでいく中で、改めて放射性物質の拡散のこわさと、事故後の国のエネルギー政策と放射能汚染対策とが結び付きながら進んでいっていることを知りました。チェルノブイリでは、 汚染地帯のゾーン化や廃村化など、放射能汚染の「見える化」をしてしまいましたが、日本政府はこのことから学んだようで、放射能汚染の「見えない化」をかなり早くから政策として推し進めています。

 その一つが放射性廃棄物のクリアランスレベルをこれまでの100Bq/kgから8000Bq/kgにまで引き上げ、8000Bq/kgまでは問題のない一般廃棄物扱いにしてしまったことでした。そしてもう一つが、その基準の変更に基づき行われる放射能ゴミの減容化政策」です。

 木質バイオマス発電は、事故のあった翌年の2012年にはすでに放射能ゴミの減容化施設として位置付けられています。

  「仮置き場の確保が課題となるため、可能な範囲で早期に焼却して減容化し、仮置き場の必要量を下げるなどの対応が重要であり、そのためには、焼却炉の設置が必要である。その際、地域の実情に応じ、一定の量と質の有機物を確保できるか等の集材性や一定の採算性が見込める場合には、焼却により発生する熱を発電に利用するバイオマス発電を活用することが考えられる」環境省「今後の森林除染の在り方に関する当面の整理について」)

 日本政府は、あれだけ過酷な事故を引き起こした原子力発電 ― 多くの市民の生活を根こそぎ奪い、故郷を去らざるを得なくさせたり、逃げたくてもとどまらざるを得なくさせたり、苦渋の帰還を選択させたりした ― 原子力発電をベースロード電源と位置付け、再生エネルギーに理解を示すようなそぶりのエネルギーミックス政策をとっています。

 2017年のFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の価格改正に、木質バイオマス発電をこれまで勢いのあった太陽光発電にとって代わらせたいかのような優遇ぶりを見ます。また、これまで燃料の多くを占めていた廃棄物や世界的に評判の悪い石炭との混焼もFIT認証の対象としない方向に変えていますが、そこには、放射能ゴミはゴミ焼却炉に、汚染された木材は木質バイオマス発電所にと、役割分担していきたいという思惑が透けて見えます。間伐材などの木質燃料を優遇すれば、いかにも環境にやさしいように見せかけられるし、難題の森林除染の解決策にもなるからです。

 

〈なぜ計画の段階で市民が知ることができなかったのか〉

 日光市飯山市の木質バイオマス発電計画はなぜ白紙撤回させることができたのか、東御市発電所はなぜかくも簡単に着工することができたのか、私にはとても疑問でした。

 でも、東御市長に対し、全東御市民向けの説明会を要望し、その要望が蹴られたことで、逆にその疑問が解けました。東御市は、市民説明会の必要がない理由として、これまでに行った「市民への情報周知の概要」を、私たちに提示しました。そこでその内容全部に関しての情報公開請求を行いました。その結果、以下のような事実がわかりました。

①この計画は2014年からあり、当初の事業主体は、東京電力であったこと。

②その事業主体で2015年の東御市議会議員総会にかけられながら、建設予定地区役員への説明の段階では、いつの間にか、建設主体が清水建設にすり替わっていること。

③2018年11月の着工までの間、一貫して市民に知られないように、東御市も市議も気を配っていること。4年間で3回の議員総会にかけられながら、議会で取り上げられたのは市民が問題にし始めてからの2019年6月の定例議会での共産党議員の一般質問の一回のみ。(市と清水建設間の土地の売買契約成立という情報が、市のHPにアップされたのは、約1年後の2019年4月25日。バイオマス発電所計画を断念させた飯山市民が東御市に駆けつけてくれた前日)

④建設予定地の羽毛山地区への説明会が、直前の回覧(清水建設の検閲済)による告知を経て、2017年11月に行われたが、参加者は地区住民15名と、商工観光課、農林課、清水建設のみ。生活環境課が出席していないのは、事業内容が環境問題に関わるという意識が希薄だという証拠。

 一番驚いたのが、①と②です。「除染・廃棄物技術協議会」の旗振り役の東京電力が最初の事業主体で、それがいつの間にか、やはり協議会メンバーであり、除染のリーダー的存在である大手ゼネコン清水建設にすり変わっていったという事実。

 また、この計画がすでに2014年に始まっているということにも目を見張りました。同時期、日光市の木質バイオマス発電計画も始まったからです。2012年に環境省のお墨付きを得て、日本の木質バイオマス発電建設(計画)があちこちで始まりだしたのが2014年頃。日本の電力会社(あの原発事故を起こした東京電力)とゼネコンの大物が、売れずに困っていた工業団地跡を買い取ってくれることに喜び、機嫌を損ねないようにと指図通りにしていった東御市の姿が、資料から読み取れます。

  また、私は東御市にはほとんど自治会が存在しないという事実も知り、日光市の反対運動が、後半自治会中心になっていたスタイルとの違いを見せつけられました。東御市に存在する「区」とは「行政区」であって、そこの区長は、市の公職、非常勤特別職なのだから、市から降ろされた伝達事項を市民に伝えることは得意としていても、市民の立場に立って市側の伝達事項に対し疑問を呈し行動していくことは難しい。これでは住民自治は絵にかいた餅です。

 飯山市でも区や区長という制度が取られていると思いますが、それでも計画を白紙にすることができたのは、区長が中心となって、区とは別に「木質バイオマス検討委員会」を立ち上げ、住民の立場で市と交渉していったこと、また、議員たちが一貫して議会で取り上げ続け、重大な環境問題であることを市民に知らせていったこと、そして早い段階で、「ちくりん舎」(市民放射能監視センター)の青木一政氏にアクセスし、市民が学習していったことが、大きいのではないかと推察しています。

 

〈市民の監視が重要〉

 放射能の「見えない化」にしても、何年にも渡って市民に知られないようにと工夫を重ねていった東御市や業者のやり方を見ても、権力が一番恐れているのは、やはり「市民が知る、考える、そして行動する」ことだということがわかります。だから、私たちは、「木質バイオマス発電チェック市民会議」を立ち上げ、プラントの完成を待つばかりとなった発電所に対し、より安全な稼働をするように、市民も加わった形での稼働協定・覚書の締結を求めたり、市民の自主測定を行いつつ操業を監視していきます。また市民の権利や利益が守られるような市政運営がなされているかどうかを見張るオンブズパーソンチームも創ります。

 日本中に木質バイオマス発電がさらに増えていくことが予想されます。東御市で起こったようなやり方で市民が無視され、木質バイオマス発電所が建設されていくことがないように、東御市民だけでなく、長野の、日本全域の市民の皆さんに、これからの「市民会議」の活動を見守っていただきたいです。

 

  『平和の種をまく会』ニュースレター「平和の種」No.83(2019.9.8発行)へ寄稿